泊 昌孝


研究テーマ

私にとっての特異点理論

 「特異点」とは、図形にあらわれる傷やきしみとして、多様体(なめらかなもの) として処理できない部分をあらわします。これは,数学の様々な状況での理論展開の障害となる邪魔ものと考えられますが,しかし一方、現場の数学者にとっては問題の困難さが集約する本質的な対象でもあります。(ピンチとチャンスは表裏一体といいましょうか,)
 そして、今世紀後半になされた特異点解消定理や極小モデル問題をはじめとする一般論の発展は、特異点への具体的な理解への充分な基礎を与えてくれています。

 特異点論は、攻撃する手段としては応用数学と言えます。 代数幾何学、可換環論、多変数関数論、微分位相幾何学、組み合わせ論等の深い結果の上に成り立っています。 ときどき,
「たくさんの分野を理解しなければいけないとすると大変なことですね」 とも言われるのですが,実際の研究をする上ではそんな事は決してないと思います。
「個性ある理解でよいではないか」そして,
「重要な事実をのみこんで、目的に向かって勇気をもって使ってみる。」
私はこんな姿勢でありたいと思っています。また,これは,私が先達の皆さんから,何度も励ましていただいた言葉そのものでもあります。

 教育に於いても,その様な自由な精神で「個性ある同志」を育てるというセミナーなどをしてゆこうと思っています。

最近の研究対象 (1996年度研究発表,1997年度の途中まで)

・3次元 simple K3 singularityの分類 (96-99番目の発見)
・(石井志保子氏との共同研究) Non-rational singularities which looks like canonical from the Newton boundary
・2次元 star-shaped singularity の equi-singularity の問題
・(渡辺敬一氏との共同研究)正規次数付環の巡回 cover
・2次元2重点の特異点の解消過程と不変量の関係 (fudamental cycle との関連で)
・(藤枝淳道氏と共同研究)2次元次数付環の因子類群の研究
・正規次数付特異点のSegre product の研究
・filtered blowing-up の理論(fundation の部分)の拡張
早稲田大学特異点セミナーでの発表タイトル 早稲田火曜セミナーは、日本大学文理学部へ場所をうつして続いています。

論文リスト

1) On the resolution process of normal Gorenstein surface singularities of  multiplicity two with $p_a \leq 1 $

昭和58年,Proc. Japan Acad., 第59巻 第5号 Ser. A (211-213項)

2次元正規孤立特異点の分類をZariskiの標準特異点解消の言葉でおこなうことを
めざし論じている。これに引き続く論文の結果および例を交えて,2重点について
Brieskorn による絶対孤立性による特徴付けを、弱楕円型であって完全交差まで
拡張した。また、ゴレンスタイン 特異点について、自然に特異点解消課程の言葉
で特徴づけられるクラスを筆者の導入した不変量を用いて特徴づけられることを
のべた。


2) A geometric characterization of normal two-dimensional singularities of multiplicity two with $p_a \leq 1 $

昭和59年 Publ. RIMS.Kyoto Univ.第20巻 (1-20 項)


幾何種数が一般の楕円型2重点を特徴付るアルゴリズムを
E. Brieskorn と H.Laufer の結果の拡張として示しています。
結論はZariski's canonical resolution における正規化が、被約
有理曲線を中心とする blowing up 一回でそれぞれ得られるというもので、
絶対孤立性の自然な拡張になっている。当時、S.S.-T. Yau は Wagreich
の分類を発展させて、楕円型2重点には特異点解消の例外集合の形
から約130系列の類があること示していた。 当論文は内在的な
性質を与えることによるの分類である。


3) A $p_g$-formual and elliptic singularities


昭和60年 Publ. RIMS. Kyoto Univ.第21巻 (297-354項)


[博士学位論文] 2次元正規ゴレンスタイン特異点について、特異点の算術種数
による環論的不変量の評価と、堀川の幾何種数の計算公式を拡張することで、
blowing-up の 合成で得られる 特異点解消課程 を考察した。
特に、ゴレンスタイン楕円型特異点 に関してH. B. Laufer や S S.-T. Yau らの
特殊な状況でしていた形式の命題を、 幾何種数に制限のない形に拡張した。
特異点論にコーヘンマコーレー環の環論的性質を様々に反映させることを
できることを示したのが本質的である。


4) Maximal-ideal-adic filtrations on $R^1\psi_*O_{\tilde{V}}$ for normal
two-dimensional singularities


昭和61年 Advanced Studies in Pure Mathematics 第8巻 (633-647項)


この論文のテーマは特異点解消からの直像$R^1\psi_*O_{\tilde V}$
自身を調べることである。この加群上に
極大イデアルによって定まる filtration の長さと
幾何種数や算術種数などの他の不変量らとの関係をいくつかの不等式によって
明らかにした。これより、幾何種数と算術種数が一致するゴレンスタイン特異点が、
有理特異点と最小楕円型に限るというLaufer達の予想などが直ちに従う。
特異点をfiltrationの観点から調べる有効性を具体的に示し大きく発展していった
作品です。


5) On singularities arising from the contractions of the minimal section of a
ruled surface
( with F. Hidaka)


平成1年 Manuscripta math 第65巻 (329-347項)

ruled surface の minimal section をつぶして得られる2次元特異点のゴレンスタ
イン性を ruled surface を定める extension 類のフロベニウス写像に関する性質
での特徴付けた。
ここでゴレンスタイン性は泊-渡辺のfiltered ring の理論により、特異点解消から
の標準因子から決まるある加群から局所環の局所コホモロジー
への写像の単射性と密接に関係する。これを非常に具体的に調べ、同時に、
得られた例の他の 環論的不変量の分類もおこなった。
星型グラフを例外集合にもつ特異点論にたいして、最初の困難を具体的に
調べるクラスとしてこれからも更に詳しく計算されるであろう。


6) Filtered rings, filtered blowing-ups and normal
two-dimensional singularities with \lq\lq star-shaped \rq\rq resolution
(with Kei-ichi Watanabe)

平成1年 Publ. RIMS. Kyoto Univ. 第25巻 (681-740項)

この論文の目的は、通常の maximal ideal adic filtration と graded ring の次数付き
(重み付き)filtration に代表されるfiltration と filtered blowing-up による特異点論
の一般論 を展開し、2次元特異点であって、”星型特異点解消”を持つクラスの
詳しい基礎づけと考察を行う事にあります。特異点の性質として、
associated graded ring の性質は 一般的にどのようにもとの環と比較されるか、
また、その差を表現する一般論を構築し、差が明確にわかる良い filtration
が存在する為の条件を考察した。

7) On $L^2$-plurigenera of not-log-canonical Gorenstein isolated
singularities
( with Kimio Watanabe )

平成2年 Proc. of the Amer. Math.Soc. 109巻第4号 (931-935項)

この論文の主結果は「log-canonical でないゴレンスタイン孤立特異点は、
$ L^2-$多重種数の意味にて一般型」 という特異点の小平次元に 関する
分類定理です。この命題の証明には、 泉脩蔵氏の解析空間上の局所環
の解析的 ordersの理論が essential であるとことを示しました。その後、
石井志保子氏によっての重要な 発展結果(Math. Ann. 286)
が続きますが、そこでも我々の議論が評価されています。

8) The canonical filtration of higher dimensional purely
elliptic singularity of a special type

平成3年 Invent. math. 第104巻 (497-520項)


この論文の主題は、filtered ring の 理論の応用として、特異点解消についての
relative canonical algebra の有限生成性 を調べることです。
Newton 境界のコムパクトフェイスは、それぞれlocal ring の filtration をひきおこ
すが、かなり弱い条件のもとにcanonical filtration になってしま
い、これより特異点解消の relative canonical ring の有限生成性が特殊
な純楕円型特異点に対し証明されます。
定義式の Newton 境界について有限分類に結び付く具体的な 情報が得られた。


9) Normal $Z_r$-graded rings and normal cyclic covers
(with Kei-ichi Watanabe)

平成4年 Manuscripta math. 第76巻 (325-340項)


目的は正規特異点の 巡回被覆の環論的研究の為の既約性、正規性やゴレンス
タイン性の基礎づけとして書かれまし た。環 $R$ の巡回被覆を分岐データ
$D \in Div(R), f \in Q(R)$ を用いて表し、それらによる正規性の判定及び因
子類群の対応が結果です。応用として、巡回被覆が regular に成
るための条件を決定し、normal graded ring が Pinkham-Demazure
表現(ポーラライズド表現)されたとき孤立特異点を定める為の必要充分条
件を与えました。

10) The inequality $8p_g < \mu $ for hypersurface two-dimensional
isolated double points

平成5年 Mathematische Nach. 第164巻 (37-48項)

2次元正規超曲面特異点の milnor 数 $\mu$ と geometric genus $p_g$ の間に
$ 6 p_g \leq \mu $ という予想があります( Durfee予想 ). この論文の主定理は
「重複度2の場合には、更に強く $ 8p_g + 1 \leq \mu $ が成立すること」です。
技術的には 堀川の幾何種数計算公式と Laufer の公式のうえに乗って
います。更に泊の楕円型2重点の特徴付けに関する 主結果の応用として、Yau-Xu
が示した不等式の 別証明も与えて、現在までに得られ
てきた結果との位置関係も与えました。

11) Hypersurface non-rational singularities which look canonical from
their Newton boundaries
(with Shihoko Ishii)

平成13年 Mathematische Zeitschrift、第237巻, 125-147 (2001)

超曲面特異点のNewton boundary を filtered blowing-up という観点から
研究しています。とくに、Prof. M. Reid 氏よる「有理特異点(または非有理特異点)
の判定に関する、良い埋め込みの存在」に関する予想に反例を構成することが
できました。また、同時にある意味では拡張した形での肯定的な回答も与えていま
す。われわれの3次元の反例のなかには、有名な95のクラスからちょっとはずれる
単純K3特異点も含まれています。
Reid 先生の予想の単なる反例の発見というだけでは無く、filtered blowing-up
による有理特異性の判定に関して、新しい局面を切り開く端緒になって欲しいと、
著者達は考えています。また、Reid 先生御自身からもいろいろアドバイスをいただき
ました。


12) Cyclic covers of normal graded rings
(with Kei-ichi Watanabe)

Kodai Mathematical Journal vol.24 (2001), 436-457

正規次数付環$R$ の次数付巡回被覆に Pinkham-Demazure 表現の言葉による
polarized 表現を与え、いくつかの応用をおこなっています。
とくに、index one cover, class group の巡回拡大に関する比較、
を通じて、$R$ の Kawamata log terminal property の判定、
そして、Kummer 型の 巡回被覆と Veronese 部分環をとる操作の関係
が論じられます。後者は、森重文氏の 次数付UFD の構造定理をすこし
拡張しています。

13) Multiplicity of filtered rings and simple K3 singularities of
mutiplicity two

Publ. RIMS Kyoto Univ., vol.38-4, 693-724(2002)

特異点の重複度をfiltered blowing-up の理論によって研究しています。特に、
その associated graded ring (tangent cone) の算術的なデータから、重複度
を下から抑える不等式を得ました。これによって、重複度2に単純K3特異点に
ついては、定義式の Newton boundary が $(1,1,1,1) \in {\bold R}^4$ を
含むような良い座標系の存在をしめしました。これは、(11) でも触れている
Reid 氏の予想をオリジナルな形で確認していることになります。

14) A characterization of semi-quasihomogeneous function
in terms of the Milnor number
(with Masako Furuya)

Proc. Amer. Math. Soc (to appear)

超局面孤立特異点を定義する関数 f に対して、その Milnor 数 $\mu(f)$ を
座標に与えられた 重みと、それによる weighted Taylor 展開 $ f= f_\rho +
f_{\rho+1} + .... $ の言葉により、下から評価しました。この不等式の等号
が成立する為には、初項 $f_\rho$ が孤立特異点を定めることが必要十分
であることがわかります。このことは、Milnor 数の言葉による semi-
quasihomogeneous 関数になる為の $f$ に関する判定基準を与えています。
我々の証明では、filtered ring に関する重複度の理論が使われ、議論は
代数的なものであたえられます。
 この話しは、元々は共著者の古谷雅子氏が Newton 境界の言葉により得て
いたものを、代数的手法で等号成立条件をこめて別証明したものです。

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